四季の花図鑑 
桜(さくら)について

桜の花も多くの種類があります。日本人にとって日本を代表する花と言えば誰もが”桜”と答えるでしょう。また,桜が嫌いな日本人は殆どいないでしょう。
その理由は,桜の花がぱっと咲いて,ぱっと散る,散り際の良さ・風情が日本人の信条に合うからだと勝手に思っています。

このページでは”桜に付いての歴史・人との関わりを調べてみました。
(桜の写真の目次は下部にあります)

1.「さくら」の語源
 さくらの語源については,いくつかの説があります。
 その一つに,古事記に登場する「木花開耶姫」(このはなさくやひめ)のさくやが転化したものだという説があります。
 また,さくらの「さ」は穀霊(穀物の霊)を表す古語で,「くら」は神霊が鎮座する場所を意味し,「さ+くら」で、穀霊の集まる依代(よりしろ)を表すという説があります。昔から,桜の開花が農作業の目安の一つになっていたことを思えば,いにしえの人々が桜に実りの神が宿ると考えたとしても不思議ではありません。

2.「さくら」と日本人の関わり
 平安時代より前までは,野生の桜を鑑賞していたと考えられます。桜は万葉時代の歌にも詠まれていますが,その数は梅よりも少ないものでした。それは、梅を愛でる大陸の文化に貴族たちがあこがれたためです。
 平安時代に入って,野生の桜を都市部に移植して鑑賞するようになりました。桜の花見の風習は,9世紀前半に嵯峨天皇が南殿に桜を植えて,宴を催したのが最初と言われています。その後,貴族から武士や大衆へ,そして都から地方へと広まっていきました。
 桃山時代には,豊臣秀吉が我が故郷吉野と醍醐(京都)で盛大な花見を催しました。花見の楽しみが一般に知られるようになり,大衆にも一層身近なものになりました。

 
江戸時代に入ると,3代将軍家光が上野に寛永寺を建てて吉野の桜を移植し,隅田川河畔にも桜を植えました。(日本の桜の発祥の地は奈良県の吉野考えられています。そうです,日本を代表する花のルーツは吉野にあったのです。)また,8代将軍吉宗が飛鳥山を桜の名所にしたことも有名です。花見はますます庶民に広がりました。
 江戸時代の前半には,桜が一気に散る様が武士に嫌われたようですが,泰平の世に入り,歌舞伎の忠臣蔵で「花は桜木,人は武士」という台詞が使われたことで,武士の桜嫌いは消えていったとも言われます。
 更に,江戸時代末期に登場し,あっという間に全国に広まったソメイヨシノのおかげで,日本中に花見の風習が広く普及し,深く浸透していったと言えるでしょう。
 一方,兵士は桜のように潔く散るべしとして,戦争中は軍国主義の道具として使われた悲しい歴史もありました。その歌は,「歩兵の本領」であり,以下のように唄われていました。

万朶の桜か 襟の色
花は吉野に 嵐吹く
大和男子と 生まれては
散兵戦の 花と散れ

3.桜の種類
 春の訪れとともに咲くのが桜。日本(沖縄と北海道を除く)での桜の80%はソメイヨシノ(大島桜と江戸彼岸の雑種)だ言われていますが,その他の桜の種類も多い。桜を大きく分類すると自生種(山桜を代表とする桜),一重の里桜(染井吉野が代表),里桜(八重〜半八重桜)となります。
 なお,人によっては里桜=八重桜と分類している場合もあるそうです。

糸括 里桜の園芸品種で江戸時代から知られています。花は淡紅色で八重咲きです。
妹背 花は大輪の八重咲きで紅色。京都の平野神社にある桜でひとつの花に雌しべが
2本あり,果実も2個つくことからこの名がつけられました。
大原渚桜 花の色が濃く,遠目でもよく目立ちます。また,花付きも良い桜です。
大山桜 自生種:花は染井吉野よりピンク色です。通常,染井吉野より遅く開花します。
オカメ桜 英国の桜愛好家により作られた桜。大きくならないため小さな庭でも楽しめます。
御室有明 大島桜系里桜。花は直径4〜5cm,花弁数5〜13枚で白もしくは淡紅色です。
花は八重で樹高が低く,根元から分れた低い枝に花が咲くのが特徴です。
春日井 奈良の春日山にあった桜で,淡紅色の八重桜です。
唐実桜 中国原産の桜で,ピンク色が綺麗です。
河津桜 伊豆半島の河津町にある早咲きの桜で,寒緋桜と大島桜の雑種と推定されます。
寒桜 暖地では1月中旬から花が咲きだす桜で熱海桜とも呼ばれます
。寒緋桜と山桜の雑種と推定されます。
関山 4月下旬になると深紅色,八重咲きの大きな花があでやかに咲き,花弁数は20〜45枚。
ふつう不規則にねじれる。外側の花弁は円形,内側の花弁は細長い。
寒緋桜 中国から台湾に自生している桜で台湾緋桜,緋寒桜とも呼ばれています。
花は釣鐘状の形となり花の色と併せ独特の雰囲気をもつ桜です。
菊桜 金沢市の兼六公園に伝わる最も有名な菊桜。
花弁数300〜350枚。二段咲きで花の中心は濃紅色。
黄桜 鬱金(うこん)と同一との説もある黄色い桜です。
桐ヶ谷 花は大輪,一重八重咲きで淡紫紅色。開花期は4月中旬。
その花の美しさに御車を返してこの花を眺めたとも伝えられる桜で,桐ケ谷とも呼ばれます。
金豆桜 萼筒に毛が無く,2花づつ集まって3月下旬から4月に開花します。
兼六園熊谷 山桜ですが花色が濃く,よく目立つ美しい花です。
小汐山 花の特徴は中輪一重白色の山桜系です。
子福桜 秋から冬にかけて咲き続ける珍しい品種です。
花は白色の八重咲きです。
佐野桜 樹形はほうき状となり,花序は散形状で2〜3花からなります。花弁は11〜20枚からなり,
蕾は淡紅紫色で開花時は長さ1.8pの円形で淡紅色となります。内側のものほど細長く,基部は
くさび状となり内側の3枚は旗状弁を呈します。
枝垂桜 江戸彼岸を品種改良した栽培種で枝が垂れる品種です。
松月 花は大輪の八重咲きで淡紅色。昔,東京の荒川堤にあった,とても美しい八重桜です。
太白 日本では絶滅された品種とされ,イギリスから逆輸入された品種です。
この品種の花は,桜の中では最大級のものです。
手弱女 たいへん優雅な花です。萼筒は紅紫色で,しわが多い。
十月桜 秋から初冬にかけても咲く桜です。別名「冬桜」とも呼ばれます。
昭和桜 一重の桜ですが詳細は不明です。
染井吉野 日本各地に植えられている代表的な桜です。江戸時代末期に
江戸染井村(現在の東京都豊島区)から「吉野桜」として売り出されました。
二期桜 春と秋に2回さくさくらの種類です。
「彼岸桜」の変形だそうで,関西では彦根城に咲いていました。
庭桜 室町時代から栽培の記録がある桜で,花は八重咲きです。開花は庭梅より
やや遅くなっています。
白山一号 枝が見えないぐらい沢山花を付ける桜です。色は薄いピンク色です。
花染衣 薄紅色の大きな,綺麗な八重桜です。名前がいかにも日本的です。
林二号 花は淡紅紫色をしている八重桜です。
一重白彼岸枝垂桜 有名な京都:円山公園の枝垂れ桜の種類です。
普賢象 八重咲きで淡紅色の花です。室町時代からあったといわれる古い品種で,葉化した雌しべが
普賢菩薩の乗る象の鼻に似ていることからこの名がつけられたといわれています。
紅垂れ桜 枝垂れ桜の内薄紅色の花を咲かせる品種です。
弁殿 花は淡いピンクで日光山から出た品種といわれています。
山桜 自生種:古来より親しまれてきた代表的な野生の桜です。
花とともに展開する新芽の色が様々で,山野の景観を美しく彩ります。
花びらは5枚です。関西では染井吉野よりも人気があるようです。
八重桜 八重桜にも多くの品種があります。ここでは名称不明の八重桜を集めています。
八重紅枝垂れ桜 枝垂れ桜の内薄紅色の花を咲かせる八重の品種です。
柳桜 中国北部,朝鮮原産の桜です。その他詳細は不明です。
楊貴妃 花は大輪の八重咲きで淡紅色。その美しさから中国の楊貴妃を連想して名付けられた
といわれる桜で,余り大きくなりません。
陽光 天城吉野と寒緋桜との交配品種です。

4.桜の名所
 誰かが「桜の名所,その第一番は?」と,問えば,私は「吉野山」と即座に答える。別に「義経と静が手を取り合って道行きを遂げようとした(?)山,私の故郷」だからという訳ではありません。桜の山として古今東西この吉野山を越える山は他にありません。京都円山の桜も名所として名高いが,所詮この桜だって,吉野から移植されたものです。とにかく「桜と云えば,吉野」。それほどの桜なのです。さて桜がきて吉野がきて義経・静とくれば,歌人西行を忘れることはできません。日本の歴史上で,西行ほど吉野を愛した人間はいません。とうとう我慢仕切れず,庵まで結んで,住み着いてしまったほどです。死ぬまで吉野の桜を思い続けた西行は,吉野山に関する数多の歌を詠んでいます。その中につぎのような歌があります。
  春といへば誰も吉野の花をおもふ心にふかきゆゑやあるらん
(大意:春と言えば,誰でもまず吉野の桜を思うはずだ。その気持ちに何の深い訳などあるだろう。)
 素直な歌です。それほど吉野の桜は,桜の名所として知れ渡っていました。現在でも吉野の山には,三万本とも六万本とも言われる桜が群生しています。また,桜の種類は200種に及びそのほとんどは白山桜です。我々の多くは,山桜というと,勝手に山に群生している木と誤解しているが,実はそうではありません。山桜の寿命は、意外に短くて、120年から130年位しかない。また花の最盛期は樹齢にして40から50年の頃です。だから山桜とて,人の手が入らなければ,その美しい景観を維持することは不可能なのです。


★大阪での桜の名所

場所 桜の本数 桜の種類 特徴
造幣局 通り抜け 約380本 カンザン,ショウゲツ等100種以上 桜の季節のみ,1週間一般開放される造幣局の通り抜け。
乱れ咲く八重桜にはうっとり。古くからの名所。
万博公園 約5500本 ソメイヨシノ,サトザクラ,シダレザクラ
ヒガンザクラ他全9種
万博公園桜まつりでは,昼から夜と
それぞれに表情を変える美しい桜が楽しめる。
鶴見緑地公園 約1000本 ソメイヨシノ,サトザクラ,ヤマザクラ
シダレザクラ,ヤエザクラ
随所に咲く桜の他,季節の花も堪能できる。
服部緑地 約2600本 ソメイヨシノ,オオシマザクラ
ヤマザクラ
広大な園内に様々な桜が咲き乱れる。
うららかな日差しの中,ボートに乗りながらの花見は絶景だ。
毛馬桜ノ宮公園 約4700本 ソメイヨシノ,ヤエザクラ,サトザクラ,カンヒザクラ
カンザクラ,シダレザクラ,ヤマザクラ
大阪城をバックに,ゆったりと流れる大川とその両岸に咲き乱
れる桜が絶景。水の都を感じさせる代表的な花見スポットだ。
大阪城公園 約4300本 ソメイヨシノ,ヤマザクラ,オオヤマザクラ,サトザクラ 天守閣を中心とした大阪城公園として,全国各地から観光客の
訪れる観光スポット。西の丸庭園にはソメイヨシノを中心に約600
本もの桜が咲き誇り,桜の時期には1週間,夜間も開園され,
夜桜を楽しむ多くの市民で賑わいます。

5.和歌と桜
 遙か昔から古今和歌集を初めとして和歌の世界で,桜について色々な句が詠まれています。ここでは,HP作成者として好きな句を紹介します。

久方のひかりのどけき春の日に しづ心なく花のちるらむ(紀貫之)

 大空の日の光のゆったりとした春の日であるのに,なぜに桜の花はそわそわとせわしなく散るのでしょうか。日本でも一二を争う有名な歌。

花の色は 移りにけりな いたづらに わが身よにふる ながめせしまに(小野小町)

 桜の花の色は,早くも色褪せてしまったことでしょう。咲いた甲斐もなく,長雨が降り続いたために,賞賛する間もなく・・・
空しい恋の想いに明け暮れている間に,私の姿もこの桜のように色褪せてしまったのでしょう・・・。

世の中に絶えて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし(在原業平朝臣)

 桜を愛する余りに,雨や風やが気がかりで,心は落ち着かない。こんな想いをするのならば,いっそこの世に櫻がなければと。
しかし,決して櫻を悪んで無ければよいという意ではない。

待てといふに散らでしとまる物ならば なにを桜に思ひまさまし(読人しらず)

 散るのはしばし待ってくれと言うのを聞き入れて,櫻が散らずに留まるものなら,世の中にこの花にまさる物はなかろう。
しかし,それを聞き入れず散ってすら,これ程美しい花もない。

一目見し君もやくると 桜花 けふは待ちみて ちらばちらなん(紀貫之)

 櫻の花よ,ちょっと顔を見せた人が,もう一度来るかもしれないから今日一日だけは散るのを待ってみてくれ。
それでも訪れない時は,お前の勝手で散って貰おう。

み吉野の 山辺に咲ける 桜花雪かとのみぞあやまたれける(紀友則)

 吉野山のほとりに咲いているあの桜の花は,雪ではないかとつい見間違えてしまうことだ。吉野山が桜の名所であると同時に,雪の名所だから見立てたのである。

越えぬ間は 吉野の山の 桜花人づてにのみ聞きわたるかな(紀貫之)